熟練の技

今この本を読んでいます。

この本は現代の名工に選ばれたバット職人の久保田五十一氏やグラブ職人の坪田信義氏の仕事についてスポットをあてた本です。

その中でバット職人久保田氏のエピソードで感心したところがあったので紹介します。

久保田氏は名立たるプロ野球選手のバット手掛けています。その中で歴代最多3回の3冠王に輝いた現中日監督の落合博満氏との話です。

1995年のシーズンオフに落合選手が2本のバットを携えて岐阜の養老工場までやってきました。

そして2本を並べ、ひとつのバットのグリップが細い、というのです。

久保田「そんなはずはありません。」

落合「いや間違いない。おれは素手でバットを握っているから、ちいさな誤差でもわかる。」

そんなバカな、と思いつつ久保田氏はノギス(副尺つきの金属製ものさし)を取り出してグリップ部を計測しました。

確かに落合選手の指摘通りひとつのバットのグリップ部が0.2ミリ細かったのです。

原因は久保田氏が老眼になりノギスの目盛りが見えにくくなり、バットの誤差になっていたのでした。
 
そして久保田氏は自身の非を詫び、率直な疑問を落合選手にしてみました。

久保田「わたしの中で0.2ミリの誤差がいけないという理由があまり理解できません。なんでダメなんでしょうか?」

落合「バットは強く握ってはいけない。ボールがバットに触れた瞬間、ぎゅっと握りしめる。そのとき、バットのグリップが細いと手の中でグリップが遊んじゃう。ゆるんじゃう。だから、ダメなんだ。」

この話を読んだときなんてレベルの高い職人同士の感覚なのかと思いました。

0.2ミリで削り分ける久保田氏も、その誤差を分かる落合選手も超一流の職人です。

脳科学者の話で職人の道具を操る感覚とは「自分の身体を認識していたニューロン(神経細胞)が、道具を手の一部として認識し始める」というのです。

本当にその通りだと思います。

僕は焙煎をし始めて約6年半となりました。

焙煎初心者だった頃同業の先輩方に話を聞いて「焙煎は1秒で味は違う」といわれました。

僕はひねくれ者なので「大げさだ」と思っていました。ですが、ここ最近になってその言葉が素直に入ってくるようになりました。

僕の場合はまだ1秒単位とまではいかないですが「10秒の誤差」ははっきり分かるようになりました。

まだまだ未熟者です。これから先「1秒の誤差」を追及していきたいと思います。

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